東京地方裁判所 平成11年(ワ)27995号・平11年(ワ)27979号 判決
原告 白砂はすみ
原告 榎本和人
右両名訴訟代理人弁護士 鈴木一洋
被告 王子信用金庫
右代表者代表理事 大前孝治
右訴訟代理人弁護士 北原雄二
被告 瀧野川信用金庫
右代表者代表理事 浅香誠之助
右訴訟代理人弁護士 西坂信
同 浅野貴志
同 渡部朋広
同 桝田裕之
主文
一 被告王子信用金庫は、原告白浜はすみ及び原告榎本和人に対し、それぞれ金一七三万五四〇四円を支払え。
二 被告瀧野川信用金庫は、原告白浜はすみ及び原告榎本和人に対し、それぞれ金二〇六万二三八四円を支払え。
三 訴訟費用は、被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文と同じ。
第二事案の概要
一 本件は、榎本登美代(以下「登美代」という。)の相続人の一部である原告らが、登美代の相続財産である同人の被告らに対する預金等の返還請求権につき、これを共同相続したとして各原告らの法定相続分に相当する金員の支払を求めた事案である。
二 争いのない事実等
1 登美代は、平成四年五月七日に死亡したが、生前、被告王子信用金庫との間で別紙第一目録記載の各預金契約を(以下「本件預金一」という。)、瀧野川信用金庫との間で別紙第二目録記載の各預金契約を(以下「本件預金二」という。)、それぞれ締結した。
2 登美代死亡により、同人の子である原告白砂はすみ(長女)、榎本潔(次男)、佐藤美代子(次女)、原告榎本和人(三男)の四名が登美代を相続した。(甲一、二)。
3 佐藤美代子は、平成六年ころ、東京家庭裁判所に遺産分割調停を申立て(平成六年家イ第三五一四号、三五一五号)、本件預金一及び本件預金二はいずれも遺産分割の対象とされ、平成七年六月七日調停が成立した。右調停によれば、本件預金一及び本件預金二は、相続人四名がそれぞれ法定相続分と同じ四分の一の割合で取得することになった(甲三)。
4(一) 登美代の被告王子信用金庫に対する本件預金一の平成七年五月六日時点の残高は六九四万一六一九円であり、その四分の一の金額は、一七三万五四〇四円(一円未満切り捨て)である(甲四)。
(二) 登美代の被告瀧野川信用金庫に対する本件預金二の平成七年五月六日時点の残高は八二四万九五三七円であり、その四分の一の金額は、二〇六万二三八四円(一円未満切り捨て)である(甲五)。
5(一) 前記のとおり調停が成立したが、本件預金一及び同二に関する全ての預金通帳等を保管していた佐藤美代子は、調停成立後も預金通帳を引き渡さず、また、他の相続人の預金払い戻し手続に一切協力しなかった。
(二) 金融機関は、預金者の相続人に対する預金の払い戻しに際しては、預金通帳、相続人全員の実印による押印、相続人全員の印鑑証明書等を要求しており、これらが揃わない限り任意の払い戻しには応じない取扱いをしているところ、佐藤美代子の協力が得られないため、原告らは預金の引き出しができない(以上につき、弁論の全趣旨)。
三 争点
1 相続人が数人あり、その相続財産中に預金債権がある場合において、遺産分割協議が成立しているが相続人の一部がこれに協力しないとき、相続人は遺産分割協議の内容に基づき、その払い戻しを請求することができるか。
2 原告らの主張
金銭債権は遺産分割協議を待たずに相続開始と同時に各相続人に分割帰属するが、相続人全員の同意があれば、これを遺産分割の対象とすることができるところ、本件では遺産分割調停において、本件預金一及び二を遺産分割の対象とし、結局相続分どおりの四分の一ずつの割合で取得する旨の調停が成立した。したがって、いずれの観点からみても、原告らは、本件預金一及び二の内四分の一相当の金額について、確定的に預金債権を取得したものである。
3 被告王子信用金庫の主張
被告王子信用金庫は、預金の払戻しには、同被告が定めている手続を履行してもらうことが、手続上の過誤、紛争を防げると考えている。本件の場合、遺産分割の調停が成立しているので、他の相続人の署名押印、印鑑証明書の添付の省略は検討の余地があるが、定期預金証書、通帳の提出は不可欠である。
4 被告瀧野川信用金庫の主張
(一) 共同相続人全員が預金債権を遺産分割の対象とすることに同意した場合には、金融機関はその協議が成立するまで預金債権の帰属が未確定であることを理由に法定相続分の払戻請求を拒否できると解される。
本件においては、遺産分割調停は一旦成立しているものの佐藤美代子が調停条項を任意に履行することを拒んでいるのであるから、本来訴訟事項である分割の前提問題について紛争が存在し、あるいは分割調停に瑕疵があることを理由に紛争が再燃するおそれがある。
すなわち、遺産分割の対象とすることについては相続人全員の同意があるが、預金債権の帰属が未確定である場合と実質的に同様であるということができる。
(二) 原告らは、平成四年五月六日時点の残高証明書を基礎として預金の払戻請求をしている。しかし、被告瀧野川信用金庫が管理する登美代名義の預金には、平成四年五月六日以後、利息一万四三八五円が発生しているほか、出捐者が不明の定期預金及び普通預金への入金一八万円がなされている。したがって、原告らが主張する金額の払い戻し請求が認められたとしても、尚、債権者不明の債権が残存することになるばかりか、被告瀧野川信用金庫の事務処理上も多大な支障が生ずる。
第三争点に対する判断
一1 相続人が数人あり、その相続財産中に預金債権がある場合において、遺産分割協議が成立していれば、各相続人は遺産分割協議の内容に基づき、これに応じて権利を取得することは当然である。したがって、被告王子信用金庫は原告らに対し、それぞれ本件預金一の金六九四万一六一九円の遺産分割の内容である四分の一の相続分に相当する一七三万五四〇四円(一円未満切り捨て)を、被告瀧野川信用金庫は原告らに対し、それぞれ本件預金二の金八二四万九五三七円の遺産分割の内容である四分の一の相続分に相当する二〇六万二三八四円(一円未満切り捨て)を支払う義務がある。
2 被告王子信用金庫は、第二、三、3のとおり、主張する。
しかしながら、本件預金一の存在及び金額、登美代の相続人四名の存在、登美代の遺産分割の内容が前記のとおりいずれも明確なのであるから、定期預金証書及び預金通帳の提出がなくても、原告らの被告王子信用金庫に対する請求権があることは明らかであり、また被告王子信用金庫が支払をすることによって不利益を被るおそれもないというべきである。被告王子信用金庫の右主張は理由がない。
3(一) 被告瀧野川信用金庫は、第二、三、4、(一)のとおり、遺産分割調停が一旦成立したが、その後佐藤美代子が調停条項を任意に履行することを拒んでいることから、本来訴訟事項である分割の前提問題について紛争が存在し、あるいは分割調停に瑕疵があることを理由に紛争が再燃するおそれがあり、預金債権の帰属は未確定であると主張する。
しかしながら、右遺産分割は、家庭裁判所の調停において成立したものであり、意思表示に錯誤がありかつ表意者に重大な過失がない等の特段の事情がない限り、有効であると解されるところ、右特段の事情を窺わせるに足りる証拠はない。
そうすると、本件預金二の存在及び金額、登美代の相続人四名の存在、登美代の遺産分割の内容が明確なのであるから、原告らの被告瀧野川信用金庫に対する請求権があることは明らかであり、また被告瀧野川信用金庫が支払をすることによって不利益を被るおそれもないというべきである。被告瀧野川信用金庫の右主張は理由がない。
(二) 被告瀧野川信用金庫は、第二、三、4、(二)のとおり、主張する。
しかしながら、被告瀧野川信用金庫が主張する利息及び入金は、原告らが本件において請求するものではないから、右利息及び入金についての権利の帰属が不明確であることを理由として原告らの請求を拒絶することはできないというべきである。被告瀧野川信用金庫の右主張も理由がない。
二 結論
以上によれば、原告らの請求は理由がある。
(裁判官 草野真人)
別紙<省略>